
設立趣意書
平成16年における日本医師会の勤務医会員数は74,991人で全会員数の46.8%、都道府県医師会に所属する勤務医数は87,588人で総会員数の50.1%を占めている。このように医師会員の約半分が勤務医であるが、一般的には「医師会は開業医の団体」と認識されている。
その原因は、開業医に比べ勤務医が医師会活動に積極的でないためと考えられる。勤務医の病院以外での活動の場は所属学会であることが多く、日本医師会や都道府県医師会には、勤務先病院の都合で又は医師賠償責任保険の関係で名前だけ加入していることが多いのが現状である。
勤務医の医師会活動の低さは代議員数をみても明らかであり、日本医師会で勤務医でありながら代議員として活躍している会員数は、平成16年度統計でみると21人で、代議員総数342名の6.1%に過ぎず、都道府県医師会総計でみても3,718人中549人で15%に達していない。
つまり、勤務医会員は医師会内での構成比率に見合った責任と役割を果たしていない、あるいは果たせない状況にあると言える。今こそ開業医と勤務医の一致団結が必要と考える。
現在、医療を取り巻く環境は、政府の医療費抑制策により大変厳しい状況にある。年々増大し続ける医療費に一定の歯止めをかける政策が必要であることは理解できるが、わが国の対GDP(国内総生産)医療費比率はOECD(経済協力開発機構)諸国のなかで第17位であり突出しているどころか比較的低水準にある。この低コストにもかかわらず平均寿命世界トップクラス、乳児死亡率世界最低の驚異的な成果を生みだしている医療制度が国民皆保険なのである。
しかし、小泉首相直轄の経済財政諮問会議と総合規制改革会議は株式会社参入、混合診療など市場原理導入による財政改革を図ろうとしている。また、国民総医療費を抑制しようというならば国際的にみて高すぎる薬剤費および医療機器価格の大幅な圧縮が有効であるにもかかわらず、厚生労働省は医師の技術料を含む診療報酬引き下げを繰り返し行うことを有効な抑制策と考えている。さらに言うならば、世界に類を見ない、このような国家的医療費削減プロジェクトの裏には社会保障より公共事業を優先する日本独特の政治的土壌がある。日本医師会は実際に国民の健康を守る立場から、これまでも随時、医政に関する提言を行ってきているが、政策決定に反映されたものはごく一部である。日本医師会が今より強固な医師の団体となって政治的発言力を増すためには、勤務医会員も医療政策について関心を持ち、開業医会員と連携して望ましい医療改革の方向性について提言できるシステムを構築する必要があると考える。
患者の視点に立ったとき、今、医療提供者側に求められているものは、医療安全の確保、医療を担う人材の確保と資質の向上、救急医療体制および地域医療体制の確立、在宅医療の推進、患者・国民の医療上の選択の支援、医の倫理の高揚と自浄作用などである。
個人で診療所を運営しプライマリ・ケアを守備範囲とする開業医だけで、これらの諸問題に対応することは不可能と考える。一方、特定機能病院や基幹病院を診療の場とする勤務医は、医療安全対策や人材確保・資質向上の面では力を発揮することができるかも知れないが、その他の課題に独自で対応することはできない。つまり開業医と勤務医は“医療機能の分化と連携、その結果としての医療安全の確保と質の向上”を実現するために車軸の両輪としての役割を果たさなくてはならず、日本医師会ならびに都道府県医師会はその場と機会を提供する必要がある。
また、勤務医に特有の問題として過重労働と長時間労働がある。勤務医対象になされたアンケート調査は数多くあるが、「昼食を摂る時間がない」、「殆ど寝る時間がなかった当直明けの勤務はつらい」などの回答が必ずと言ってよいほど寄せられている。これは勤務医の健康問題であると同時に、医療安全の確保の面からも放置できない問題である。病院自身の問題のようにもみえるが、その背景に医師の地域的、診療科別偏在が大きく関わっている。この問題を早急に解決しないと、勤務医は益々開業指向となり、基幹病院での医師不足、都市部における個人診療所の乱立状態に拍車をかける事態となる。日本医師会と都道府県医師会は開業医会員と勤務医会員の叡智を結集させて、この問題の解決に全力を尽くす必要があると考える。
以上述べたような勤務医が果たすべき役割と責任は、近年、広く認識されるようになり、各医師会で勤務医部会が作られるようになってきた。
平成17年度現在、勤務医部会をもつ医師会は28道府県医師会である。栃木県には平成11年に医師会とは別組織として栃木県勤務医会が設立され、医療政策に関する情報の提供、その分析と提言内容の検討、生涯教育制度の推進など多岐にわたる活動がなされてきたが、栃木県医師会内の組織でないため、全国医師会勤務医部会連絡協議会には名を連ねることができず、その活動内容を公の場で発表することはできなかった。
そこで、栃木県医師会勤務医問題検討委員会では、この問題について討議し、最終的に、「勤務医会員が医療政策、医療制度ならびに医療にまつわる諸問題に深い関心をもって、熱心に活動を続けるためには、その活動成果を公的な場で発表し提言できるシステムの構築が必要であり、そのためには、日本医師会勤務医委員会と繋がる勤務医部会を県医師会内に設置することが望ましい」という結論に達した。
以上の理由から、栃木県医師会内に勤務医部会を設置することとなった。
勤務医部会が立ち上がって、開業医と勤務医が車軸の両輪となって活躍できるようになれば、医療行政当局に対する発言力は高まり、また、地域における医師不足のような急務の課題にも対応できるようになり、そして、勤務医自身の労働環境改善にも役立つものと確信している。

