またぞろ、検査漬け薬漬け長期入院話

 読売新聞は9月12日、<シリーズ 医療の効率化2 「コスト意識」促す試み>と題してDRG/PPS(診断群別定額支払い方式)を取り上げています。 この方式は、<病気ごとに患者一人あたりの平均的な医療費をはじき出し、医療機関に支払う診療報酬をこれに限定する。>もので、病名が決まれば、どんな治療をしようが検査をしようが入院させようがさせまいが診療報酬は同じというものです。
 <このため、医療機関側は報酬の枠内での効率的な治療を心がけることになり、医療費の適正化、質の向上につながるとされる>のだそうです。

 DRG/PPSの話はさておき、この記事の小見出しの中に<無駄な検査・”薬漬け”・長期入院を抑制>とあり、記事の中には<従来の「出来高払い」は(中略)”薬漬け”など過剰診療につながりやすく、世界で一番長いといわれる入院日数を招く元凶とも言われてきた。>とあります。 いつまでこんな嘘を言い続けるのでしょうかね。

 さて、現在はまだ出来高払い制度の時代です。 「無駄な検査」の問題は後回しにして、”薬漬け”から話しましょう。 以前にも書きましたが、一般的な医療機関では、現在、薬価差益は有りません。 儲けを出そうとして薬を多く出すことは無いのです。 世界的に見ても、日本の患者1人当りの薬剤額(比率ではありません)は決して多くはありません。 これは、現在の日本では薬剤は適正に使われていないという主張に何の根拠も存在しない事を証明しています。

 次に長い入院日数の話ですが、医療機関が社会福祉施設の肩代りをしていた時代は、本年3月31日をもって終了したはずです(4月1日より介護保険施行)。  また、越冬隊が存在した北国以外の地域では、すでに十数年前から、むしろ「入院3カ月での患者の追い出しや、たらい回し」、つまり平均入院期間の短縮が社会問題となっていた訳で、構図としては医療期間は入院期間の短縮を目指していても患者側が納得していなかったという事になります。 このときマスコミは患者側に立って長期入院をさせない医療機関を非難しましたね、主張に一貫性が見られませんね、その場しのぎの報道をいつまで続ける気でしょうかね。

 DRG/PPSでは無い現行制度の中でも、医師の一部は「利益確保」の為、入院期間短縮を計って来たという事実を故意に無視するのはなぜですか? これは社会的に正しいかどうかは全く別にして、その医療機関「局所」の「コスト」意識の現れですよ、「コスト」=「総収入」−「利益」ですからね。  これにさらにDRG/PPSが加わったらどうなります? まして、我々日本の医師全体には、これまでずっと、そして今も、技術料を不当に安く抑えられてきたという怒りがある、そんな現状でDRG/PPSになったら、その総額のなかから真っ先に自分達が納得する欧米並の技術料分を確保して、残りを検査や治療に使うという医師が多数出て来るでしょう、それで良いのですかね。

 検査漬けについては、主に病院に於て、医師が一人の患者の診察にかけれる時間が少ない、つまり、医師当りの患者数が多すぎるのが原因です。 きちんと診察をしようとしたら、内科では一人の患者当り、初診で、問診15分、理学的所見収集10分、カルテ記載他で5分、合計30分かかります。 再来ならばおそらく5分5分2分で12分位のものでしょう。 ここまでやれば、検査を大幅に減らせますし、医学的にも正しい手順で進めれますが、現実には不可能でしょう。 検査以前の過程にこれほど時間をかけれず、診断や病状や病期等を絞り込めていなければ、当然、次の検査の過程で確認していかねばなりません。 こうして検査項目が増えているのが現状なのです。

 問題は、病院への患者の集中であり、また、患者が現状の様な多人数でないと運営出来ない様な制度にあります。 そして、これはDRG/PPSでは改善しません。 どうせ「現状の患者数」に対応した「平均単価」に決めるでしょうから、多人数を「処理」せねば運営出来ぬ事に変わりは無く、今の半ば手抜きの問診や理学所見収集の分しか時間がとれず、儲けを増やそうとすれば検査をやらず、病院の経営陣にとっては、やる気が無い医者が喜ばれるだけの事です。

 DRG/PPSでは患者にとって何も良い事はありません、診療側が金を儲ける気なら今よりやり易くなりますが。  記者が良くなると書いている2つは既に現行の制度の中で片付きかけていますので、これらを持ち出すのは時代錯誤ですし、残りの一つは粗診粗療を招くだけの事です。 粗診粗療からは、決して医療の質の向上は望めません。 もっときちんと勉強してから記事を書くべきでしょう。 実態からかけはなれた決まり文句を並べ立ててパチパチと手を叩いてもらうのは、小学生時代の読書感想文で卒業していなければいけないのですが。(MAX)