雑感

 昨年末以来、医療制度に拘る大きな報道が無かった為、開店休業状態が続いています。

 個別の事件としては投薬ミスの話が多数報道され、今年になって馬鹿な准看護士が筋弛緩剤を使った殺人未遂で逮捕されたという報道もありますが、以前も書いた通り、この類の事件を防止するにはフェイルセーフシステムの強化、つまり、人手や監視用機器等を増やすこと、結局金をかけること、最終的には国民医療費の増大でしか解決出来ません。

 マスコミは従前から医療従事者にコスト意識を持てとの妄言を繰り返して来ましたが、医療従事者は、治療や看護介護に生き甲斐を感じ、さらにコスト意識もあるからこそ、その職場ではぎりぎりの人員や設備でやってきているのが現状です。 欧米に比べて、とてつも無く低い収入で医療に従事してきているのです。 これにさらにフェイルセーフシステムの強化費が掛かるならば、それに見合った診療報酬の増大を要求するか、生き甲斐を金儲けに変更して、「集客」に務め一人当りの「水揚げ」を増やすことで、「コスト意識」の真の意味である「利益追求」に沿ったやり方と言うことになります。 どちらでも医療費は増大しますが、どういう積もりなのでしょうかね。

 筋弛緩剤を使った殺人未遂事件の舞台となった北陵クリニックでは、報道によれば、人件費抑制と削減の為、薬剤師も辞め、看護婦が同時期に複数辞めたとのこと、その看護婦達の補充として例の准看護士が雇われたとのことです。 これも「コスト」意識の現れでしょう。 もっとも、確認は出来ていませんが、退官後の基礎の教授を理事長にしたり、元県立病院院長を院長にしていた、つまり、実働部隊以外の余計な医者がぶらさがっていた様に見えますから、かなりいびつな「コスト」意識としか言えませんが。

 一人当りの「水揚げ」増の例らしいのは、埼玉の精神科内科病院(242床)で、年間77人の死亡者中、69人が高価な中心静脈栄養法を受けていたという報道(読売新聞12年12月30日)です。 これは食事が全くとれず、鼻から胃に通したチューブや、腹から胃に穴をあける胃ろう等が出来ない場合や、栄養状態や電解質等の体液成分を厳格に管理する必要がある場合等に行うものであって、この科この規模の病院にしては、異常に発生頻度が高く、また、死亡者も多すぎるという感じがします。

 一人当りの「水揚げ」増は、勿論、コスト削減でも可能です。 例えば、使い捨ての手術用手袋や、同じく使い捨ての気管チューブ(救急救命や延命医療で、鼻や口から人工呼吸器につながっている太いチューブです)を洗って消毒して再利用する、はたまた、消毒用の綿球を小さくする(綿球代も消毒薬代も削減出来ます。さすがにこの病院では外科医が怒って辞めたそうです)、鍼灸も併用している医療機関では消毒せずに下着の上から鍼を打つ、また、ある病院では、看護婦の手間を減らすため(=安い給料で雇う見返り)に、寝た切りの患者に一度に3枚紙オムツをあてて、時間がくると内側のものから引き抜いていく(患者は先天性股関節脱臼矯正用具を装着したような状態になり、当然、やがてオムツを外しても股を閉じれなくなり、歩行不能になります)との事です。

 誤ったコスト意識は、こんな事をもたらします。 基本的な話をすれば、今の日本の医療制度では、医療従事者の収入が妥当であると仮定しても、医療費の8、9割の金額相当分が削減禁止域に入る、つまり、病気というコモンハザードに対する社会的な必要経費なのであって、コスト意識を働かせてよいのは高々1、2割の部分にしか過ぎません。 このコスト意識の適用部分を拡大せよというのは、病弱者切捨てにつながる反社会的行為です。 マスコミは、ここまで考えて物を言っているのでしょうかね。(MAX)