毎日新聞はどうしちゃったのか



毎日新聞はどうしちゃったのか?

 8月17日、毎日新聞朝刊に、精神医療審査会が厚労省の通知を守らず、強制入院患者の早期社会復帰を妨げている、という内容の記事が、1面トップと社会面に掲載されていました。
精神医療取材班の記事です。

「精神病院の入院患者からの退院や処遇改善の請求を審査する審査会は、『知事は請求を受理してから1ヶ月、やむをえない事情がある場合も3ヶ月以内に審査結果を通知するよう努める』と厚労省の通知が出ているのにもかかわらず、全国の平均は35.2日と規定をオーバーしている」というものです。

《半数、訴え“放置”》という大きな見出しでしたが、放置ではなく、もっと審査を迅速にせよ、という内容でした。特に、大阪と三重、埼玉、東京、愛知など9自治体が50日をオーバーしていると指摘されています。

 この記事の内容では、指摘された自治体以外は、おおむね1ヶ月以内に審査を完了していることになります。

 審査に時間がかかるという問題は、全国的なものではなく、審査会を開く合議体の数が少ない地域と充分ある地域との格差が大きい、というところに帰するのではないでしょうか。
この点の指摘があいまいです。

 さらに社会面では、関連記事として、
「97年に警察官を殺害した男性は、6年半の措置入院中に何度も退院請求をしたが認められず、絶望的な精神状態から『強い警察官を殺せば苦痛を軽減できる』と信じ込んで犯行に至った」として
「重症患者が退院請求をするというのは、社会復帰への大きな一歩。その芽を摘み取ってしまっているのが、今の審査会」という、この刑事弁護をした弁護士の話が載っています。

 絶望的な精神状態が警官を殺害したかどうかはさておき、この例は、何回も出された審査請求を審査会で認められなかった、という例です。

 この場合は審査会は開かれており、結果が訴えは認められなかった、ということで、おまけに、その妥当性を否定する理由は、この記事からは、弁護士の主観的な話と、苦痛軽減のための警官殺しという本人の弁明だけです。

 つまり、審査会の遅れが、この犯罪を誘発したのではなく、別の理由で、この犯行は行われたわけです。
 それに、6年半の措置入院でから解放されてから、警官を殺害したわけですから、むしろ、そういう状態で退院させたほうが、問題があると思うのですが。

 こういう例を、審査会が請求を放置している、という記事の裏付けとして提示しているのですが、放置ではなく、検討して退院を認めなかったということですので、例としては的はずれだと思います。

 私は、審査会がどういう審査をしているのか、知りませんが、私のような門外漢の読者が、毎日新聞を読んで、内容を判断すると、以上のような感想を持ちます。

 誤解があれば、強制入院患者の早期社会復帰を妨げている事例を、きちんとした裏づけのある取材を基に、明らかにして欲しいものです。

 そこで、朝日新聞の8月5日付朝刊《金満開業医 今は昔?》という記事と比べてみましょう。

 こちらの趣旨は
「大都市の私立病院の内科部長が「脱サラ」して中心部で開業したら、年間の診療報酬は9542万円で、人件費、薬剤費、テナント料、ローンなどを支払うと、手元に残るのは1250万円程度で、勤務医時代と同程度の収入だったという。
また、同地区の病院は、院長が病気で2ヶ月休診したら、年間1300万円の赤字になったため、有床診療所にしたという。」

《利益に大きなばらつき 『妥当な線』必要な論議》という囲み記事が横にあって、その内容は
「厚労省の医療経済実態調査(99年6月)によると個人の一般診療所の利益は年間で平均2840万円と発表したが、大阪保険医協会は昨年10月、税務署への申告をもとにした集計を行ったところ、個人診療所の年間利益は1724万円であった。開業医がもうけすぎかどうか、十把一絡げの判断はできないようだ。」
というもので、開業医、勤務医、薬剤師、看護婦、一級建築士、製造業部長、金融・保険業部長、中央省庁事務次官と局長、社会福祉・医療事業団理事長の年収一覧が載っていました。

 今までなら「全所帯の平均年収(721万円)の3倍以上、などというセンセーショナルな見出しになるところでした。

 今回の記事は、実際の診療所や病院の取材を行って、典型的かどうかはわかりませんが、身近にありそうな診療形態をきちんと取材して、客観的数値を提示しています。

 こういう記事と比較すると、毎日新聞の今回の誌面も、前回の205円ルールの記事と同様、取材対象の言い分をそのまま鵜呑みにして、事実として書いてしまう、客観性に欠けた記事と言わざるを得ません。

 毎日新聞はいったいどうしちゃったんでしょうか?
             (藪野)