朝日・手塚教授はヒットラーか

朝日新聞の朝刊に「私の視点」という欄があります。

2月21日では、千葉大学法経学の手塚和彰教授の意見が掲載されています。
題は『医療費抑制に医師会は自らを律せ』というものです。
さて、どういう建設的意見が記載されているのかと読んでびっくりしました。

「経済の低迷が続く中で例外的に成長を続けている産業が『医療産業』である」と書いてあります。

『医療産業』が成長を続けているなら結構なことだと思うのですが、この社会法学者は「悪」であるとして、
抑制策の一つとして、「窓口でいったん全額を支払い、後で保険負担分の償還を受ける」ということが「不可欠」であると言っています。

こういう制度では、高額な医療になればなるほど、診療を受けづらくなるのは自明の理です。そして、医療を受けられなくなる患者は、生命にかかわる重篤な疾患に限られます。保険ですぐに返してもらえるではないか、と思われる人もいるでしょうが、医療機関からのレセプトが届いて、審査され確定してから、支払われることになるので、2ヶ月は払ってもらえないと思います。

ところで、『医療産業』が成長するから、より効果的な薬剤の研究、治療器具の開発がなされるのです。
『医療産業』が成長を止めるなら、一番被害を蒙るのは、ほかならぬ病気になった人なのです。

ところで『医療産業』は全て元気なのでしょうか。
手塚教授は「薬漬けを脱し、医療費の適正化を図る」と言っていますが、『医療産業』が全て元気なら、今回のインフルエンザの薬剤の不足は起きなかったはずです。
薬価差益など無いに等しいインフルエンザの薬剤は、ほんの少しでも余ると、医療機関・調剤薬局では逆ざやになります。それで、少量しか仕入れない、すると医療機関への「卸し問屋」でも少量しか製薬会社から仕入れない、というわけで製薬会社も少量しか輸入しないということで、不足したのだと考えられます。

現在は、薬品は少量包装が主流になっています。
差益がない証拠です。
そういう現状で、薬価差益を目指して多剤投与をする医療機関などあるのでしょうか。
「私の視点」が、薬価と原価の差がどのくらいあるのか知ってて書かれているとはとても思えません。

また、小泉首相が「三方一両損」という話をしたことを、すでに昨年十月から実施されている高齢者の一割負担と、診療報酬を引き下げられる医師と(本当はすでに引き下げられていることに手塚教授は気づいていない)、社保本人の3割負担を指して、「『三者で堪え忍ぶ』(小泉首相)のではなかったか」と言っています。

だれも、そんなことを言っていません。

小泉首相は、保険者・医療機関・患者を指して「三方一両損」と言ったのです。そして、それさえも欺瞞で、本来ならば三方一両損すべきは、国と医療機関と患者なのです。国は損(拠出金は減らして得しておきながら)していないのですから欺瞞です。
まして、医者・老人・社保本人が「堪え忍ぶ」三者であるのだという話は、聞いたことがありません。

また、教授は、「日本の開業医が経済的に最も恵まれている」と言っており、医療費の上昇はあたかも開業医が利益をむさぼっているとでもいいたげな議論を展開していますが、はたしてそうでしょうか。
保険診療の総額の開業医が占める診療報酬はどのくらいなのか知らないで行っている議論です。

さて、教授は、「医師会批判は内部からは起きない。『昔陸軍、いま医師会』ではないか」と言っていますが、私は『手塚教授こそヒットラー』と指摘しておきます。
なぜなら、「高齢者に対する人工透析などは自前で」やれと書いているからです。生産性の無い人間は無用という暴論だと思います。

手塚教授の言うように、医師会が「社保本人の三割負担に反対」するのは、受診する患者が減るということも、当然あるのだと思いますが、そればかりではないのです。
昨年の改定と老人医療保険の改定で、厚労省の予想以上に医療費は減少したにもかかわらず、三割負担を行うのはどうかと思うのです。
会社の健診で異常を指摘されても医療機関を受診しなかったり、自覚症状があっても自己判断で売薬ですましたりすることが多くなり重大な疾患を見逃すことになりはしないかとも考えているのです。

私個人の考えでは、保険医療制度を、厚労省の役人に任せて作成するのではなく、医師会側からも診療の実際を承知している代表がでていき、治療を受ける患者側からも議論に加わってもらって、公正で、平等な保険医療制度を作成し、何割負担が妥当かを決めるべきであると、思っています。

それにしても、「朝日新聞」が、こういう『愚論』を掲載するとは、「くらし」の欄でさまざまな取材をして書いている記者に失礼ではないかと思いましたよ。
             薮野